リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

指定医師のアンダーコントロールにある日本の中絶(7)

ミソ単独だけでは女性が苦しい

 では、なぜそんなに安くて手軽なミソプロストール単独の中絶の方をより強く推奨しないのか?
 副作用が長引き、時により強く感じられるためだ。ミフェプリストンを併用した方が、より早く、より痛みや苦しみが少なく終わらせることができるからなのだ。
 しかし、そうなると、ミフェプリストンを使うことなく、プレグランディン単独で中期中絶を行われている日本人女性はどうなるのか……より副作用が長引き、より強い痛みやより強い苦しみにさらされていることになる。それはWHOが「より痛みが強い」としている「搔爬」を多用しているのと相似形の事態が、ここでも繰り返されている。女性が味わう苦しみなどはそっちのけで、医師の都合が優先されている結果なのだ。
 しかも、海外のより良い中絶方法を学ぼうとすらしてこなかったのは、「より危険な方法」を採用することで、自分たち以外――指定医師でない産婦人科医師、他科の医師、より専門性の低い職種の人々――が、入り込みにくいような体制を築き上げるためだったのではないか、と疑われても仕方あるまい。
 ここに来て、世界中で安全性と有効性に太鼓判を押されている経口中絶薬を、日本でしか使われていない古くて(ミソプロストールに負けた)高価で使いにくい薬と「同様の管理下に置く」としていることも、指定医師たちが自分たちにとって「不都合な薬」をアンダーコントロールに置こうとしている証拠ではないだろうか。

 経口中絶薬は、当然、承認すべきである。そして、WHOの『中絶ケアガイドライン』に沿って、安全な中絶へのアクセスを妨げている法律を変え、指定医師以外にも扱えるようにして、この薬を必要としているすべての人たちに差別なく届ける必要がある。そのためには公費補てんや保険診療化していくことも重要なカギを握っている。

 さらに、人びとのリプロダクティブ・ヘルス&ライツを尊重してこなかったこれまでの産婦人科医療を徹底的に見直し、脱構築していくことも必要だ。とりわけ、中絶医療を医師の管理下に置くのではなく、必要とする個人を中心とした医療に変えていくことは喫緊の課題である。

 「女性」を痛めつけ、押さえつけるような政策を取ってきたことは女性たちを苦しめ、少子化を悪化させてきた。少子化をこれ以上進展させないためにも産む機能を備えた身体をもって生まれてきた人が、自分自身の意志で産む・産まないをコントロールできるような法・社会的な環境を整えていくことは最重要課題の一つである。