リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

ブラジルで大量中絶審理

D論提出1週間前で、こんなことやってていいのかと思いつつも……うーん、ひどい話だなぁと思ってご紹介。規模もそうだし、一連の事情もひどい。このところ、ベルギーの赤ん坊売買、イギリスの娘2人へのincestと出産&中絶強要の話もうんざりするほど悲惨だったけど、いや、あまりに悲惨すぎたから、ここに書く気持ちにならなかった。でも、今回の大量中絶事件は、やはり国の制度に問題があるような気がしてならなくて、つい反応してしまった。このクリニックの医師が儲けのために中絶をしていたのか、人道的な信念でしていたのかはこの記事だけでは分からないけれど、これだけの女性のニーズがあったという事実を、いったい政府はどう受けとめているのだろう……。

このところ、Rebecca CookやRosalind Petcheskyの本などを何度もめくっているものだから、こういう国にこそ、リプロダクティヴ・ライツを根付かせていかなければならないんじゃないかと思わずにいられない。嗚呼……でも他山の石かな。日本だって、まともに検察が本腰を挙げたらどうなるか分かったものじゃないよなぁ……。

でも、こういう検挙が可能だったということ自体、ブラジルの“クリニック”(これがどういう種類のクリニックであるのかは、これだけでは不明である)の力が弱かった(弱まった)ということなのか……それとも、何十年も開業していたということは、これまでは目こぼしされてきた(今になって取り締まりを厳しくした)ということなのか。

ちゃんと調べる時間もなくて、よく分からない事件だのだけれども、どこか引っかかるものがある。

以下「ニッケイ新聞 2008年11月20日付け」にありました。情報源のイロはそれなりに理解して読んでください。

前代未聞の大量中絶審理=立証可能な事例が1500?=カンポ・グランデの裁判所で

 南マット・グロッソ州カンポ・グランデ市の裁判所で進行中の、約一万件の中絶を行なったクリニック関連の審理では、既に一五〇人が起訴され、起訴対象の女性総数は約一五〇〇人と十八日エスタード紙が報じた。
 同紙によれば、六月から始まった一連の審理では、十一月初めまでに一五〇人が起訴されており、三七人への実刑判決が出た他、二六人が社会奉仕などによる刑の代替を命じられている。今年度の起訴は二〇〇人程度で、残りは来年以降審理というが、一件の中絶事件でこれだけの大量審理が続く例は前代未聞だ。
 今回審理されている中絶事件は、〇七年三月の閉鎖まで二〇年余り開業のクリニックで起きた。押収されたカルテは七二一五点だが、書類不備などで、実際に扱った患者数は捉えられない状態だという。約一万人を対象として事情聴取などを開始した検察庁では、超音波検査の結果などで立証可能なものだけで一〇〇〇件を超えたという。
 母胎が危険な場合や、強姦による妊娠以外は違法とされる中絶だが、十八日や四月五日付フォーリャ・サイトによると、クリニックの責任者は動物用の薬なども使用。妊娠期間に応じた料金表も押収され、中絶が違法なものであったことを裏付けている。また、患者の説得は心理学者が担当との記述もある。
 一連の流れの中で問題となるのは、中絶を行なうに至った事情の解明と妊娠から中絶に関わる人的関係。患者の大半は二〇〜三五歳の独身女性という中、審理過程で問われるべき問題は複雑だ。
 また、今回の事件にアムネスティー・インターナショナルなどの人権団体も注目しているは、中絶根絶への意義と共に、捜査の過程で個人情報が公開された時期があったことなど。守秘義務を怠り、患者の人権保護への配慮に欠けがあった検察庁への批判は免れない。
 一方、代替刑対象者が三〇人になり、保育所などでの一年間の奉仕が命じられたとは十九日エスタード紙。十九日フォーリャ紙も四〇人が審理中止で社会奉仕を行なうと報じているが、担当判事は、以前の刑罰はもっと厳しく、「保育所などで子供に触れ、就労などで子供の世話のできない親に代わる社会作業は、刑罰というより、自分達がやったことについて顧みる機会だ」という。

マチズムの国、ブラジル……と、わたしは理解している。いったい全体、孕ませた男性は検挙されているのだろうか? 「自分達がやったこと」について反省すべきなのは、実際には男性たちではないのだろうか?……と思わずにはいられない。