リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

女性差別撤廃条約委員会と日本政府のやりとり(H21=2009年まで)

リプロダクティブ・ヘルス&ライツ関連個所の抜粋

政府からCEDAW委員会に提出した「女子差別撤廃条約実施状況第4回報告」(内閣府男女共同参画局の仮訳)から抜粋します。

第4回報告(平成10年7月)
11.第12条
(4)家族計画
我が国の出生率は、1975年以降急激に低下し、1996年の合計特殊出生率は1.43と将来人口の減少が予測され、さまざまな少子化対策が講じられている…中略…既婚者の場合と同じく未婚者の間でも避妊が普及している。

人工妊娠中絶は母体保護法によって、妊娠の継続または分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害する恐れがある場合、あるいは暴行若しくは脅迫によって又は抵抗若しくは拒絶できない間に姦淫されて妊娠した場合で、本人及び配偶者の同意によって、妊娠22週未満に限り行うことができる。その件数は、1955年の117万件をピークとして年々減少し、1980年には60万件を下回り、1996年は約33.8万件であった。年齢階級別の実施件数をみると、20歳未満は28,256件(8.3%)であるが、女子人口千対実施率は1980年以降横ばいで推移し、1996年は前年に比べ数、率ともに増加している。1996年の20歳未満の母親からの出生数は15,621(全出生の1.29 %)と年々減少傾向にある。20歳未満の妊娠は、6割強が人工妊娠中絶という結果である。

第5回報告では若年層の望まない妊娠の問題と性教育の必要性にのみ触れています。

第5回報告(平成14年9月)
第12条
1.生涯を通じた女性の健康の保持増進
(3)性教育・啓発
学校教育においては、児童生徒が発達段階に応じ、性に関する科学的な知識を身に付け、生命の大切さを理解し、人間尊重、男女平等の精神に基づく異性観を持ち、望ましい行動がとれるよう、「体育」「保健体育」「理科」「家庭科」「道徳」や「特別活動」などを中心に、性に関する指導の一層の改善・充実に努めている。このため、教師用指導資料の作成や、各種研修会を開催するなど、各種施策を推進している。
また、中学生に対して、性情報への適切な対処や行動の選択が必要となることについても指導するとともに、高校生に対して、受精、妊娠、出産とそれに伴う健康問題や人工妊娠中絶の心身への影響などについて指導し、性に関する情報への対処など適切な意思決定や行動選択が必要であることを理解できるよう努めている。
社会教育においては、都道府県・市町村が行う、性に関する学習や女性の健康問題を含む目的別・対象別の学級・講座等を開設することを奨励している。

(4)生涯を通じた女性の健康支援
ア) 思春期
「健やか親子21」は、2010年までの目標として、10代の人工妊娠中絶及び性感染症罹患率を減少傾向とすることを掲げている。
10代の望まない妊娠は7.0(女子人口千対)(1996年)から12.1(女子人口千対)(2000年)と、増加している傾向にある。これを予防するため、2000年に思春期児童を対象として、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの考え方を踏まえ、性教育、避妊、人口妊娠中絶の影響、性感染症等についての理解を深めるとともに、相手の人格の尊重と対等な関係に基づかない性行為の自粛等を盛り込んだ「思春期の性と健康に関するハンドブックの作成」を国から各地方公共団体に対して通知し、各地方公共団体において思春期の性や健康に関するハンドブックの作成が推進されるように、その作成にあたっての指針を提示した。

これら2回の報告に対する「第4回・第5回報告審査に関する女子差別撤廃委員会からの質問事項に対する回答」(内閣府男女共同参画局の仮訳)では、DVや近親姦に関する問があった以外、RHRについて突っ込んだ質問はなかった。

「第4回及び第5回報告に対する女子差別撤廃委員会最終コメント」(同仮訳)では、次のような懸念が示されている。

主要関心事項及び勧告
357.委員会は、憲法が両性の平等を規定してはいるが、国内法に差別の明確な定義が含まれていないことに懸念を表明する。

358.委員会は、条約の第 1 条に沿った、直接及び間接差別を含む、女性に対する差別の定義が国内法にとりこまれることを勧告する。委員会は、また、条約についての、とりわけ間接差別の意味と範囲についての、特に国会議員、司法関係者、法曹一般を対象とした、意識啓発のためのキャンペーンを行うことを勧告する。

359.委員会は、締約国が、長年の固定的役割分担意識が男女間の平等を達成するための大きな障害と認識していることを評価し、この点についての定期的な世論調査に基づく取組に留意する一方、日本において、家庭や社会における男女の役割と責任に関し、根深く、硬直的な固定観念が持続し、労働市場における女性の状況、教育の選択、政治・公的分野への参画の低さに反映されていることに引き続き懸念を有する。

360.委員会は、女性と男性の役割についての従来の役割分担意識に基づく態度を変えるために、締約国が人権教育、男女平等についての教育等の教育システムにおける包括的なプログラムを策定、実施すること、また、条約についての情報や男女共同参画に対する政府の姿勢を広めることを勧告する。委員会は、締約国が調査や世論調査を性別のみならず、年齢別にも行い、その結果に基づき、子育てを母親と父親双方の社会的責任とする考え方を促進することを目指す取組を拡大することを勧告する。委員会は、意識啓発キャンペーンが強化されること、メディアが女性のポジティブなイメージや私的、公的領域における男女の平等な地位と責任を伝えるよう奨励されることを勧告する。

361.委員会は、締約国による、女性に対する暴力を扱う法律やその他の施策を認識する一方で、女性や女児に対する暴力の横行及び既存の公的機関に援助を求めることに女性にためらいがあることについて懸念を有する。委員会は、「配偶者暴力防止法」が、現在のところ、身体的暴力以外の形態の暴力を対象としていないことに懸念を有する。委員会は、また、強姦に対する罰則が比較的寛大であること、近親姦が刑法において明確に犯罪と定義されておらず、様々な処罰規定の下で間接的に扱われていることに懸念を有する。委員会は、更に、ドメスティック・バイオレンスを受けており、かつ入国管理上の地位が配偶者との同居に依存している外国人女性の特有な状況に懸念を有する。委員会は、強制退去への恐れが、そうした女性が援助を求めたり、別居や離婚といった措置を講じる妨げとなり得ることに懸念を有する。いわゆる「従軍慰安婦」の問題に関しては、第 2 回・3 回報告の審議以前、以後にとられた措置について、締約国が提供した包括的な情報を評価しつつ、委員会は、この問題についての懸念が継続していることに留意する。

女子差別撤廃条約実施状況 第6回報告(平成20年4月)では、次のように「中絶の自由はない」と明記した。

2.妊娠・出産等に関する健康支援
(1)生涯を通じた女性の健康支援
ア)思春期
354.「健やか親子21」は、2010年までの目標として、10代の人工妊娠中絶及び性感染症罹患率を減少傾向とすることを掲げている。
355.10代の人工妊娠中絶率は10.5(女子人口千対)(2004年)である。これを減少させるため、思春期の男女等を対象に、医師や看護師が性に関する不安や悩みについての相談に応じる思春期相談クリニック事業や、妊娠について悩んでいる者に対し、助産師等が相談に応じ、アドバイス、カウンセリングを行う事業を実施している。

イ)妊娠出産期
(ⅰ)妊娠から出産期における女性の健康支援…省略…
(ⅱ)不妊専門相談サービス等の充実
359.「健やか親子21」や「子ども・子育て応援プラン」においては、不妊に悩む者への支援を施策の一つにあげている。これらを踏まえ、2005年度には54か所の都道府県、政令指定都市で、不妊専門相談センターを設置するとともに、2004年度より不妊治療に要する費用の一部を助成している。
(ⅲ)周産期医療の充実
360.我が国の妊産婦死亡、周産期死亡の現状をみると、2004年の妊産婦死亡数は49人、死亡率(出産10万対)は4.3である。2005年(概数)の乳児死亡率(出生千対)は2.8、乳児死亡の51.0%を占める新生児死亡の率(出生千対)は1.4、また周産期死亡率(妊娠満22週以後の死産数+早期新生児死亡数/出生数+妊娠満22週以後の死産数×1000)は4.8で、年々低下している。
361.「健やか親子21」では、妊産婦死亡率の半減及び世界最高水準の周産期死亡率の維持を2010年までの目標として設定しており、妊娠期から出産、小児期にいたるまでの高度な医療を提供するための周産期医療施設、小児医療施設を全国的に整備しつつ、引き続き都道府県単位で妊婦及び新生児に対する周産期医療についてのシステム体制の構築を推進している。
50
(ⅳ)女性の主体的な避妊のための環境整備
362.1999年に低用量ピルの、また、2000年に女性用コンドーム等の使用が承認された。2005年に、母体保護法の一部改正が行われ、助産師を始めとする受胎調節実地指導員が受胎調節のために必要な薬剤を販売できる期限を従前の2005年までから2010年までの5年間の延長を行った。
(注)なお、妊娠中絶に関しては、平成6年(1994年)の国際人口/開発会議の「行動計画」及び平成7年(1995年)の第 4 回世界女性会議の「北京宣言及び行動綱領」において「妊娠中絶に関わる施策の決定またはその変更は、国の法的手順に従い、国または地方レベルでのみ行うことができる」ことが明記されているところであり、我が国では、人工妊娠中絶については刑法及び母体保護法において規定されていることから、それらに反し中絶の自由を認めるものではない。

(2)適切な性教育の推進
ア)学校における適切な性教育の推進
365.若年層の人工妊娠中絶や性感染症の増加などが見られる今日、性と生殖に関して健康であることの重要性について、発達段階に応じて男女ともに正確な知識を持ち、自ら健康管理を行うことができるようにするとともに、生命尊重・人格尊重・男女平等の精神に基づき、自分自身を大切にし、相手の心身の健康についても思いやりを持つことが重要である。

女性用コンドームの使用承認を報告しているが、2010年に不二ラテックス社は「WO+MAN フェミドーム」の販売を終了しており、実質的に利用できる選択肢がないのが現状である。

また「適切な性教育」をうたっているが、この数年前に、七尾養護学校事件(2002)、性教育の教材『思春期のためのラブ&ボディBOOK』の回収(2003)など、激しい性教育バッシングが展開されており、政府の考える「適切」の中身はおのずと知れる。

これに対する「第6回報告に対する女子差別撤廃委員会最終見解(平成21年8月)」(内閣府男女共同参画局仮訳)では、次のように刑法堕胎罪を問題視するコメントが寄せられた。

健康
49. 委員会は、締約国の質の高い医療サービスを称賛する一方、近年、HIV/エイズを含む性感染症の日本女性への感染が拡大していることを懸念する。委員会はまた、十代の女児や若い女性の人工妊娠中絶率が高いこと、また、人工妊娠中絶を選択する女性が刑法に基づく処罰の対象となり得ることを懸念する。委員会は、女性の精神的・心理的健康に関する情報が不十分であることを遺憾に思う。
50. 委員会は、思春期の男女を対象とした性の健康に関する教育を推進すること、及び妊娠中絶に関するものを含め、性の健康に関する情報やあらゆるサービスに対してすべての女性や女児のアクセスを確保することを締約国に勧告する。委員会はまた、健康や医療サービス提供に関する性別データ、並びにHIV/エイズを含む性感染症の女性への拡大と対策に関するさらなる情報やデータを次回の報告に盛り込むよう締約国に要請する。委員会は、女性と健康に関する委員会の一般勧告第24号や「北京宣言及び行動綱領」に沿って、人工妊娠中絶を受ける女性に罰則を科す規定を削除するため、可能であれば人工妊娠中絶を犯罪とする法令を改正するよう締約国に勧告する。委員会は、女性の精神的・心理的健康に関する情報を次回報告に盛り込むことを締約国に要請する。

ちなみにこの第6回最終見解では、女性に対する暴力についてもDV、性暴力、社会的弱者グループの女性に対する暴力、児童買春・児童ポルノ、強姦、集団暴行、ストーカー行為、性的暴行などを内容とするわいせつなテレビゲームや漫画、慰安婦問題等にも踏み込んで強い懸念を示している。

これに対して、「第6回報告審査に関する女子差別撤廃委員会からの質問事項に対する回答(日付なし)」の中で日本政府は珍妙な受け答えをしているのだが、話が長くなるので、今回はここまでにしておく。