リプロな日記

中絶問題研究者~中絶ケア・カウンセラーの塚原久美のブログです

産むリプロ 産まないリプロ

*新型コロナ禍であらわになったリプロに対する政府の態度

個人の自己決定権を保障し、出産にまつわるケアの提供も、避妊や中絶にまつわるケアの提供も保障していくことは、リプロダクティブ・ヘルス&ライツの基本中の基本である。

COVID-19下で日本政府は「産むリプロ」に関しては対策に乗り出している。
母性健康管理措置の指針(告示)を改正
「妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」の一部改正について(通知)
こうした措置自体は悪くないが、日本で(不十分であろうとも)保障されるのは「産むためのリプロダクティブ・ヘルス&ライツ(RHR)」ばかりであることは、しっかり批判すべきだ。

海外では、COVID-19の騒ぎが持ち上がったとたんに避妊・中絶へのアクセスを守れという声が医療者側や女性運動の側から上がり、多くの国の政府はそれに応じようと努力している。こうした危機に際して、産まない方向のRHRの方がより簡単に損ねられてしまいがちだと官民ともに知っているためである。

一方、男女共同参画基本計画やCEDAW(女性差別撤廃委員会)に対する政府の回答を見る限り、日本政府が「産まないリプロ」の重要性を認めているとは考えにくい。ハンセン病患者に対する判決文の中で使われた「リプロダクティブ権」は産むことを選択する権利(産むリプロ)が侵害されたとしたことを「画期的」と受け止めた人々もいるが、本来のリプロダクティブ・ライツには産まない権利(産まないリプロ)も含まれていることを忘れてはならない。

リプロダクティブ・ライツは「産む」「産まない」の両方の権利を保障すべきなのだから、一方の選択しか保障しないというのなら、国家による選択肢の押し付けに他ならない。もともとリプロダクティブ・ライツはまさにそのような国家や家父長による「出産」強制に対抗するために編み出された人権概念なので、「産まないリプロ」を無視するのでは、まさに骨抜きになってしまうということを一人でも多くの人たちに知ってほしいし、マスコミ等もしっかり取り上げてほしいものだ。

産むリプロに関する報道はすでにある程度みられる。

「休ませてと言いづらい…」 妊娠中の働く女性コロナから保護、企業に義務付け
不妊治療、継続か延期か  「コロナ不安」で悩む女性たち

日本産婦人科感染症学会も新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について 妊娠中ならびに妊娠を希望される⽅へという案内を出している。

これに引き換え、産まないリプロの報道はあまりにも欠けている。海外で報ぜられていのと同様に、日本にも産まない選択ができなくなって困っている女性たちがきっと存在している。そうした女性たちのための存在を明らかにして、必要な対策を取っていくことも必要だ。